一日一善とは言いますが、
十分な自己満の得られる善行に毎日出くわすことは、 無理矢理探すでもしなければ意外とナカナカ難しいものです。 今日、私は「一日一善」と思わず頭の中で呟いてしまったできごとに出くわしたのですが、 運命の歯車は廻り廻って思いがけない苦悩を私に与えることになったのでした。 今日は22時前くらいに会社を出て、 私はいつものように上原までの道のりを歩いていました。 すると何気なく目をやっていた前方脇の道から、 いかにも表参道じみたお洒落な女の子が、 自転車に乗って颯爽と走り過ぎるのが見えました。 それを本当に何の気なしに見ていたのですが、 私の10メートルくらい先のところで、 彼女は「ふぁさ」と何かをいたわるような軽やかさで、 サムシングを舞い落として行ったのでした。 見るとそれは黒色の例のアレ(→)でした。 私は咄嗟に駆け寄ってそれを掴み、 自分の落としたものに気づかずに、 まるで青春の想い出のようにどんどんと遠のいて行く彼女を、走りずらい防寒装備にもめげずに必死に追いかけました。しかし彼女は振り返らない。 Oasisの名曲のように…。 曲がるとそこは表参道です。 脇道を出てすぐの横断歩道で信号待ちをすることを祈りながら、 一応追いつくことを目標にして走る私でしたが、 そうとは思えない実に緩慢なステップで、 それは彼女が信号を待たずに曲がって246に向かうと知っても死守されるわけですが、 とにかく片思いに気づいてくれない憧れの先輩のように、 こちらの思惑はどこ吹く風で、 彼女は着実に、かつ確実に、ローマへの道のりを縮めて行きました。 私は相変わらずのろのろと、でも一生懸命走りながら、 「このまま彼女が気づかずに見えなくなってしまったら、 これは神様からの贈り物として私が貰っても良いか否か」 を考え始めていました。 そして彼女が246沿いに曲がって見えなくなるか、と思ったそのとき、 ふいにペダルの足を止めて、彼女は表参道の喧噪をバックに、 Uターンをしてこちらへ戻って来ました。 私は一種の「事件」が解決する心地よい安堵感を胸に、 不安げな表情をしてこっちへやってくる彼女に向かって、 確信を持って近づいて行きました。 至近距離でやっと私の手に在る捜し物を見つけた彼女は、 お洒落な美容師さんか売り子さんによく見受けられる鉄面皮で、 私を訝しげな表情で見たように見えるように見せたあと、 「ありがとうございます」と、 やっぱり感情の汲み取りにくい表情でお礼を言ってくれました。 私はとりあえず気持ちよくなり、 一、ニ昔前のセザール(マンション)のCMの熊より謙虚な姿勢で、 「二コッ」と笑顔を見せた後、 表参道を原宿方向に向かって歩き始めました。 それから、今日は最近滞っているブログにこれを書こう! なんて構成を考えてながら歩いていました。 「一日一善…… 表参道…… 自転車の彼女…… 黒い………………………………ストール?」 そこで私の思考回路を違和感の電波が走り抜けました。 私は、アレを『ストール』って言いたいのでは、決してない。 では何と言えば…呼べば良いのでしょうか?黒いアレのことを? 黒い「アレ」は、ちょっと前にコンサバギャルズの間で大流行したものです。 私にはどうも綺麗に使いこなせそうにない「アレ」の名前を、 私はちょっと前、目にする度に頭の中で呟き、 いつかは買ってみようかと少しだけ思ったほど、 印象的で余韻の残る罪作りな名前だな、なんて思っていたのです。 40分くらい歩きながら、ときおり思い出そうと努力してみますが、 如何せん、まったくうまくいきません。 『ストール』 『マフラー』 『チュニック』 『カシュクール』 『カシューナッツ』 『き…キルケゴール』 『く…車だん吉』 『け…ケシミン』 『こ…KORG』 『さ…サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド』 『し…椎名林檎』 『す…スキャーリーおじさんと愉快な仲間たち』 『せ…SEX&THE CITY』 『そ………(スティーブン)ソダーバーグ』 いやきっと、あいうえお順だともっと後の方に違いない、と思いました。 『ら…ラドクリフくん』 『り…リズムアンドブルース』 『る…留寿都』 『れ…連帯感』 『ろ…ろれつが回らない』 渡辺いっけい(いっこう)にだめです。 そのうちに代々木上原に着き、すべりこみセーフで急行に間に合い、 でも車内ではずっとアノ名前について思いを馳せました。 しかも考えているうちに、 『この電車を降りるまでに思い出さないと、幸せになれない』 なんていう、縛りというかジンクスというかで自分を窮鼠の立場に追い込み、 自宅の駅で電車を降りた瞬間に見事その賭けに負け、 しかし限界線を「改札を通るまで」と緩やかに延ばし、 またもやその賭けに敗北し、 では「家に着くまで」と、また期限を延長し、 それでも行き当たらず家の前に着き、 階段を上りながらここでやっと神が降りてきました。 「ぱぴぷぺぽ」ですね。 頭の中で発音してみると、それらしく近づいてきたことに気づきました。 「燈台下暗し」とはよく言ったものです。 かなに○が付くと、えてして間の抜けた発音になるものですが、 真理はそこにあるかも知れない!!! …と考えながら扉の前に到着する、鍵を出す、鍵を開ける、 扉を開ける、扉を閉める、鍵をかける、 電気を点ける、電気を点ける、そしてMacの電源を入れる…瞬間のことでした。 『パシュミナ!!』 そうです。"パシュミナ"です。 語源はどこなのか、由来は何なのか、ほとんどの日本人の想像を絶する、 「漢字にできない外来語」みたいな位置のネーミングです。 どこの馬の骨ともわからない言葉に、 私の幸せの展望を奪われたかと思うと気が遠くなりましたが、 辛うじて自分の力で思い出すことができて、 私は何かに「勝った」と思いました。 このような駄文を最後まで読んで戴いた方、 ささやかながらお礼を述べさせていただきます。 どうもありがとうございました!!
by naho929
| 2004-11-16 02:46
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